着物の仕立てと仕立て直し伊藤和裁

伊藤和裁の成り立ちと想い

伊藤和裁の成り立ちと想い 2/4

伊藤和裁は厳しくもあり、楽しいところでもあったようです。

今でもそうですが、当時から、和裁所というところは、寸法見積もり、裁断、縫いはそれぞれ違う人が行う分業制でした。

サイズの見積りや裁断は、すぐには教えてくれません。最初は、縫い(運針)からです。只管(ヒタスラ)縫います。何年も縫いばかりです。

和裁所としては、ごく当たり前のことです。伊藤和裁も同じです。縫いばかりです。なので、中には、伊藤和裁を去って行く人達もいたのも事実です。しかし、和裁経験者の募集をかけると伊藤和裁には着物を縫う事が好きな、そんな人たちが集まって来るのも事実でした。

母は、色々とその子を試します。根気や集中力、手際の良さなど、この子は縫いがしっかりと綺麗に早く出来ていると分かると内弟子、外弟子に関わらず、自分の持っている仕立てのノウハウを惜しみなく、寸法見積もりや裁断、縫いのコツさえも教えました。伊藤和裁の方針です。

そして、その弟子たちには、一枚の着物を見積り、裁ち、縫いと全て一人縫い上げさせました。そして、縫い上がった着物に『仕立て上がり着物と呼ばないで、作品と呼びなさい。』と、いつも、そして、何度も、何度も、言っていました。そして、その中でも特に素晴らしい作品には、『芸術作品の様。』、『逸品の出来栄え』などと、最高の誉め言葉を使っていました。

お弟子さんに聞いた当時のエピソードです。

母と弟子たちと有馬温泉に泊まりで、旅行に行った時の事です。師弟関係無しの無礼講で一晩中、日頃の出来事、みんなの恋愛観など、そして、やはり、着物の仕立て方の話も出ます。このお弟子さんは、その時、母が弟子たちに言ってた事で、今でも、憶えている事があるそうです。それは、『着物を縫うときは、着る人の身になって縫いなさい。』、『綺麗な褄(ツマ)が出来なかったら、良い妻にはなれないわよ。』だそうです。笑顔で楽しそうに思い出して、教えてくれました。